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満州で戦争末期を迎えた12歳の少女の体験談を聞いて

 2016/09/29 コラム 取材・散歩
この記事は約 4 分で読めます。 41,137 Views

私は、戦争を語る会に参加し、終戦当時12歳の女学生(現在の中学1年生)の貴重な体験を聞く機会を得た。

私の身内にも満州からの引揚者がおり、少し話は聞いていた。強奪が横行し、ソ連の兵士が腕時計をいくつもしていた間抜けな姿の話や、戦時中も本土と違い食料は困らなかったと、聞く程度だった。

12歳の少女からの戦争の話は、暗く悲惨のあまり吐き気がする本土の話とは少し違っていた。爆弾が雨のように降りそそぎ、皮膚が焼けただれて垂れ下がる光景、ひもじくて道端の草をかじる話も、着物をもって農家にいき物々交換をした話もなかった。

いたって普通に近い生活だったようだ。
しかし、日ソ不可侵条約をやぶりソ連が侵攻したことにより、自決や自決補助、中学生に至るまで殺戮。12歳の女児までレイプの地獄となったのである。

そこにいた関東軍は腑抜けだったというのだろうか。子供のころから陸軍悪者説が言われ、役立たずであったのだろうと私は勘違いしていたことを初めて知った。そもそも、終戦当時、関東軍はもぬけの殻に近かったのである。

彼女は女学校1年生の時に、雑巾をもって登校するように教師に言われたそうだ。入学当初すでに持参していたため、疑問を持ちながら雑巾をもって登校した。すると、関東軍の陣営に赴き、掃除をする勤労奉仕(=徴用)だったそうだ。そこで彼女は驚いた。昨年はお祭りで交流した多くの兵士はおらず、数名の留守番のみ。彼らに支持されて掃除をしたそうだ。そして、このことは家族にも言うな、という事で12歳の少女は戦争が終わるまで家族といえども口にしなかったというのだ。

終戦末期、映画にもなるように日本は太平洋で大苦戦をしていた。そちらに無敵をほこる関東軍は移動していたのである。建前上は言えずともハルピンは多国籍ゆえ外国のスパイは百も承知であっただろう。

ソ連侵攻の際、12歳の少女は父親に坊主にされた。近所の男児の制服をかりて男の子の姿をしたという。そんな娘によりそうべき母親も坊主にしたそうだ。彼女には8歳の弟4歳の妹がいたそうだ。当時の出産年齢を考えると母親も30前半であったであろう。母親も十分レイプの対象である。家々にソ連兵がやってきては強奪、女児に至るまでレイプ。ご近所で妹を庇おうとした男子(高校生は戦地である)も撃ち殺されたそうだ。彼女もソ連兵がくると寒さで凍る石炭の物置小屋で隠れ、母親も顔に墨を塗り老婆のふりをしたそうだ。

どんな気持ちでいらしたことかと思うと表現できない気持ちになった。

彼女は随処で、日本も悪いことをしたから、と連呼した。

悪いことをしたから、ひどいことをされたというのである。

祖母に近い彼女を抱きしめたかった。あなたは悪くない。日本人が悪だったのではない。レイプされた少女が悪かったからレイプされたのか。姉妹をかばおうとした男子中学生が悪くて射殺されたのか。強奪された人々は悪事をはたらいたのか。日本が悪かったから。

そんな老人のセリフに今まで嫌気がさしていた。そう思うなら全財産をささげて殺してもらえと。

漸く気持ちが少しわかった気になった。あまりにも酷いことをされたゆえに、自分たちに落ち度があったからされた。そう思うしか精神の均衡を保つことができなかったのであろう。

理不尽なことが戦争なのである。そこに善悪を当てはめる清らかさは、グローバルスタンダードでは踏みにじられ悪用されるのである。

彼女の話を聞いて、彼らの言葉をキチガイ老人の戯言ではなく、被害者の悲鳴と思えるように変わった。被害者なのだから罪悪感から解き放たれて欲しいと思うようになった。清らかで、なされた悲惨さに理不尽に理由を見出そうとしなければ精神の均衡が保てないような体験をされた方々を、自己の思想や利益により利用する非道は許せないと痛感した。

被害者の敵は祖国日本ではない。戦争だ。

悪者の日本を憲法9条で抑制すべき、丸裸になれば襲われない、という考えは前述のことからもあり得ないのである。レイプや強奪や殺戮が非力な婦女子を中心にされたことからもわかる。残念ながら日本も他国も善意に囲まれてはいないのである。

私は戦争が嫌いで二度と起こってほしくない。

戦争は美化されるものでもなく、美しい死に方を推奨し信奉することも間違いで、現実逃避である。

当時の軍人の優秀さや強さにひかれ賛辞する人も多いが、人間は簡単に楽に死ねるものではない。

わが子が人を殺し、苦しみのたうち回りながら死ぬこと、四肢を失いながら生きていかねばならないことは美しいものではない。

襲われない国、戦争に巻き込まれない国、そのために日本は強くなるべきだ。

懺悔による現実逃避も賛辞による現実逃避も、ともに間違っている。現実と歴史の冷静な分析と対策こそ求められている。と私は思う。

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浅野 耀子

浅野 耀子

さざれ石の会の会員として、都内で街頭演説、室内トーク、コラム執筆。
障がい児の親としても、障がいとの共存を模索しながら、子供たちと共に成長を目指す発展途上中の母親。

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